単位数の削減と教育目標の明示(M.Yasuoka)[J]   作成日:2006/05/11
 文科省の大学設置基準の大綱化以降、多くの大学で外国語にかかわる教員や必修単位数などの削減が行なわれたようです。この削減を良しとするわけでは決してないにせよ、これに関して大分大学の事例をご紹介し、ドイツ語教育の効果について以下に私見を述べてみます。
 私の勤務する大分大学では教養教育専任教員が最初から各学部に分かれて所属しており、私の場合経済学部の学生だけを相手にドイツ語の授業を担当してきました。
 1994年度に学部改組が行なわれ、従来の教養教育専任教員も専門課程の講義や演習、大学院科目等を担当することとなりました。その機会に、ドイツ語など初習外国語も2年間週2コマで8単位必修だったのを1年次4単位に減らすことになりました。
 その一方で、翌1995年度には意欲のある学生に対応するため、自由選択科目として2年次生以上を対象の「ドイツ語II」(教養科目)と「ドイツ語コミュニケーションセミナー」(専門科目)を積み上げ科目として新設しました。しかし、実際にはこれらにチャレンジする学生は多くはありませんでした。

 その後、1997年度に教養教育に全学が関わる方式に改められ、従来の専門教育専任教員もローテーションで教養教育を担当することになると、各教員は所属以外の学部に対しても教育責任を負うことになり、私も現在複数の学部の学生を担当しています。
 殆どの学生が1年次生対象の「基礎ドイツ語」4単位の取得のみで終わる中で、教育内容をスリムにしながらも、なおかつ学生に一定の満足感・達成感を与え、省略してしまった事項は自由選択の中級クラス(「応用ドイツ語」)で補完するという方針で、「授業内容を標準化し、担当教員が誰であれ共通の必須事項を中心に教育する」という合意がなされ、中級クラスへのスムーズな接続が図られるようになりました。

 学外での学習成果を単位認定できるようになったことで、英検をはじめ各種検定試験の成果を卒業単位として認める制度も2000年度から導入されました。この制度は「学生の主体的学習意欲及びその学習成果を積極的に評価」することを狙いとしており、各種試験合格者は、1年次生対象の必修外国語(=英語)および選択必修外国語(=独、仏、中、ハングル)の単位として換算されます。例えば、独検の4級以上であれば4単位(=週2コマ)として認定するわけです。
 なお、国立大学法人化のあおりで非常勤講師が減ることとなり、2005年度から初習外国語のクラスを週1コマ2単位に半減しました。その際に、教育目標を一層明確にする必要が生じたので、授業内容を独検4級の内容にできるだけ準拠したものに改めるとともに、独検の認定も2単位としました。

 1年次で取得できなかった単位は、2年次で再履修しますが、ここで再び取得できなかった学生は、経済学部では3年次に進級できません。従って、2年次前期で単位を取得できなければ、その時点で早々と留年が確定してしまいます。しかし秋の独検4級に合格すれば進級可能と認められるので、学生にとってはこの認定制度が独特なモチベーションとなっているようです。
 昨年の秋、実際に一人の学生がこの制度のおかげで単位認定を受けているほか、フランス語やハングルの場合でも同じ事例がいくつもあるとのことです。

 経済学部改組に伴って必修単位数を8から4に引き下げたのは、次のような考えに基づいています。すなわち、教員が専門課程等を新たに担当するからには、削減は一方で止むを得ない措置であり、また他方で、従来の教育状況では8単位に固執しても大方の理解を得られない、と判断したのです。むしろ、教育目標が具体性を欠き、学生の動機付けも不明確なまま詰め込み教育を行なっていたことが、ドイツ語学習への意欲を削ぐ結果になっていたのではないでしょうか?

 ただし、積み上げ科目の新設により、若干数ではあれ意欲のある学生がこれらの自由選択科目で腕を磨き、本学の交流協定相手校であるサンフランシスコ州立大学に留学して(この学生はもちろん英語の方が得意)、向こうでも更にドイツ語の授業に出たという例や、あるいは独検に挑戦してパーダボーン大学に留学した例もあります。

 英語圏以外の場合、高い言語能力は学内選考を受験するための必須条件ではありませんが、パーダボーン大学への留学を目指す学生にはせめて独検4級に合格するように勧めています。私の担当する自由選択科目を受講した学生の中から、これまで既に3名がパーダボーン大学に留学したほか、1人の女子学生は独検2級に優秀な成績で合格し、私費で1年間ベルリンに留学しました。彼女は卒業後ファッションモデルになったという噂です。更に、経済学部の修士課程に進んだ上でオランダのティルブルグ大学に留学した学生もいます。
 これらの意欲ある学生には、検定試験の前に、「過去問」を利用して語学特訓を繰り返したこともありますが、彼女らは動機がしっかりとしていたので、私にとっても楽しい充実したボランティア授業となりました。今年の秋には、全学から交流協定枠一杯の5名の学生がパーダボーン大学に派遣される予定です。そのうちのある2年生は、昨年度は他の担当者の「基礎ドイツ語」を受講していましたが、今年度の前期に私の担当する「応用ドイツ語」を受講して、6月の独検4級と3級に挑戦すると張り切っています。これに関連して、学生の意欲を喚起することもわれわれの大きな責務です。

 これまでの体験から、(1)詰め込み教育を改善する、(2)ドイツ語の基礎を習得させ、みずから学べる基盤を与えることを教育目標とする、(3)これらについて担当者同士が合意して教育内容を標準化する、ということが重要であると私は考えます。
 ただし、単位数やクラスの削減により、とりわけ若手研究者にとってポスト減による就職難という深刻な状況が生じています。ドイツ語教育の改善や見直しとドイツ語文化の豊かさや意義の社会への発信に向け、学会としてもこれまで以上に取り組みを強化すべき時期であることを最後に訴えたいと思います。

安岡 正義(大分大学)