2019年春季研究発表会を振り返って - 記憶と記録 (H. Takada) [J]   作成日:2019/10/13

 13年に一度、春季研究発表会開催校の役目が学習院大学に回ってきます。日本独文学会の春季研究発表会には、首都圏の13の大学にローテーションがあるのです。13年前の前回、2006年、私は学習院大学に着任して2年目で、学習院大学専任教員として研究発表会の準備に関わりました。ただ、日本独文学会の開催校の経験がそれまでまったくなかったため、まともな動き方ができず、申し訳ない思いをしながら研究発表会を終えたのを覚えています。そのあと13年が経過するあいだに、私は学会の企画担当理事の職を2期4年務めることになり、理事会のほうから見た研究発表会の企画運営については理解できました。しかし、実働する開催校のほうから見ると研究発表会の運営はまた大きく違っていました。ものごと、両面から見て初めて見えるもの。

 専任教員9名からなる準備実行委員会を立ち上げたのは、開催の1年半前に当たる2017年11月でした。2019年の5月後半に開催したいと考え、大学の施設課に申し込みに行くと、すでに別の学会が建物を押さえていることがわかり、もっと早めに対応するべきであったと反省しきりでした。最終的に、春の研究発表会としては遅めの6月8日、9日の開催となりました。そのあと、2017年12月、2018年10月、2019年2月、3月、5月、そして開催1週間前と、6回にわたり準備委員会を開きました。あとで振り返ってみると、準備委員会で検討していったことは、研究発表会開催前日までにいつまでに誰が何をするのかを詰めていき、研究発表会当日については誰がどこにいて何をするのかを、初めは1時間単位くらいで、しかし最後には15分単位で正確化していく作業であったと言えます。企画担当理事の仕事は、発表会場と発表者割りを終えればあとは、(極端なくらい数の多い)メール交信が中心になります。それに対して、開催校の場合は、専任教員とアルバイト学生の担当シフトをうまく考え、よいアルバイト学生を見つけ出すことに尽きると言えます。



 人員のシフト作成は、1日目の午後2:30以降分がいちばん大変でした。台風のため2018年の東海支部による秋季研究発表会(名古屋大学)の2日目が中止となったため、本来なら名古屋で行われるはずのシンポジウムが学習院のほうに回ってきたこともあり、1日目午後は同時に8つの会場(シンポジウム4会場、口頭発表3会場、ブース発表1会場)で研究発表が行われることになりました。実行委員は9名で、しかもそのうち少なくとも2名は受付の場所に張り付いている必要があり、対策を講じないと会場のきりもりはパンク状態となります。しかし、他学科の元助教の方や、学会運営経験の豊富な大学院博士後期課程生の方に強力にサポートしていただけたおかげで、パンクやむないタイヤに空気を力強く入れることができ、この時間帯を無事に凌ぐことができました。



 前回2006年のときの詳しい記録がさまざまに残されていたのは、大変にありがたいことでした。おかげで、シフトの組み方等々だけでなく、作業の合理化も考えてみることができました。前回は、会場マップや発表会場一覧を学習院大学の大学紹介冊子や学科PR冊子などと一緒に袋詰めしました。この学習院特製紙バックを、受付で参加費をお支払い下さったみなさんに研究発表会当日に配布しましたが、今回はこれをやめました。その結果、前回は研究発表会前日に数時間をかけて行っていた袋詰め作業を省くことができました。会場マップと発表会場一覧は、A3サイズ1枚の両面印刷物として、受付横に置くことでそれに代えました。いわゆる「芳名帳」も形式的なものにすぎないのではないかという話になったのですが、「いやそうではない。参加費の集計が合わない場合には、役に立つ。」という意見が出され、「芳名帳」は合理化対象から外されました。しかしこれがまさに正解で、学会1日目夜遅くに参加費の中間集計をしたときに計算が合わなくなったとき、「芳名帳」で人数確認することでうまく数字が合いました。崇めるべし、「芳名帳」。



 懇親会には、1日目の参加者426人の半数を超える232人の方に参加いただきました。前回2006年に好評であったのと同じデリバリー業者に委託し、メニュー内容についても何度も検討しました。A出版さんから樽酒をご寄贈いただいたおかげで、懇親会初めに爽快に鏡開きを行うことができました。開催校としては懇親会参加者数と懇親会の評判をどうしても気にしてしまいますが、好評であるとのご意見をたくさんお伺いすることができ、実行委員はみな安堵しました。懇親会を終えると、開催校としては実働も峠を越しますが、翌日もまた、実行委員もアルバイト学生たちも気を引き締めながら、シフト表に則りながら仕事をし、研究発表会をまさに無事に終えることができました。



 次に学習院大学で日本独文学会の研究発表会が行われるのが13年後だとすると、2032年ということになります。2032年に世の中がどうなっているか想像がつきません。そもそも日本独文学会の運営自体も大きく変容し、ローテーション制も消えているかもしれません。ともあれ、次回に学習院大学で研究発表会が開催されるときがあれば、今回の経験が少しでも役立てばと思います。詳細は、13年という時の流れゆえひとの《記憶》からは消え去っていても、Word、Excel、PDF資料などのPC上の《記録》は残っているはずですから。



高田 博行(学習院大学)