ドイツからのお土産 (T.Kamio)[J]   作成日:2006/01/09
 Germanistikのサイトには文化の薫りがするお話こそ似つかわしい。小銭の響きは排除されねばならない。文化に産業が付いてはならん、というのがドイツの美学のメインストリームのはずだから。だが、Wagnerに大枚をはたいたあなたも、帰国の直前には小銭でお土産を買うはず。
 2004年に渡独した際、お土産の選定に困った。私が最初に渡独したのは1980年代の前半だが、その頃は、Montblancの万年筆やSTAEDTLERの筆記用具など、かさばらず比較的手頃な値段のものがたくさんあった。だがPCの時代にあっては、それらは贈呈しても珍重されないだろう。ドイツ人観光客が東急ハンズやロフトに行って文房具を買う時代だ。かつては、お金を使わずにウケねらいをするならばFruchtgummiを空港で買えばよかったが、これはもう日本のコンビニでも手に入る。私が最初にドイツで購入したお土産はSteiffのぬいぐるみだった。これとて今や日本のデパートでも購入できるし、さらにはネット上の値引き合戦の戦場でぼろぼろになっているようだ。でも、ぬいぐるみこそ、今はやりの概念用語で言えばhaptischな情報が大量に動員されねばならない商品であり、電脳空間には居場所がないはずなのだけど。その毛並みのなめらかさ、そのお腹のやわらかさ!

 閑話続行。ドイツからのお土産の選択肢が少なくなったことは、(1)made in Japanの品質向上、(2)グローバリズム、(3)ネット販売の普及などに起因するだろう(美術館のカタログすらネットで購入することができる)。日本製で対応物が生産されておらず、日本のデパートでもネットでも販売していないものを探すのは難しい。小銭で購入でき、かつ、かさばらないモノの代表と言えば、絵はがきだろう。確かにドイツの絵はがきはきれいだ。しかし、きれいなものに限って日本で同じものを見つけて愕然とすることが多い。ドイツでしか売っていないのは、Joschka Fischer やFranzJosef Strauß などを戯画化したローカルなユーモア絵はがき(ドイツ語では?)だ。だが、このユーモア絵はがき、肩の力が入りすぎて笑えないし、ましてや日本で私の帰国を待ちわびている(はずの)親族には「?」だ。みうらじゅんが言うところの「いやげ物」にしかならない。絵はがきからみうらじゅんに向けて線を引けば、「カスハガ」にぶつかる。「カスハガ」とは、日本各地の名所で売っている絵はがきセットに一枚は混入しているような、チョー無意味な絵はがきをさす。要するに脱力系の間抜けなハガキだ。上記のユーモア絵はがきは、被写体への揶揄がむきだしで、「カスハガ」たりえない。余裕がないのだ。ドイツ土産をみつくろう時間があるならば、たとえばKreuzbergに行って、ドイツ版「カスハガ」を探すのもいいかもしれない。レア・アイテムになること間違いなしだ。

 さて。2005年の5月、日本独文学会のメーリングリストに「ドイツ語でしか得られない情報の具体例」という件名のメールを送信した。ドイツ語履修者の減少をくいとめるために、ドイツ語のウリを皆で共有してはどうか、という目論見があった。何人かの方々が情報をお寄せくださった。この場をかりてお礼申し上げます。がしかし、その後このトピックがメーリングリストに浮上することはなかった。はからずも、「ドイツ語でしか得られない情報の具体例」がごく少数でしかないことが、うらづけられてしまったかっこうだ。このサイトにも、「私のドイツ土産」なんていうコラムを作ったらアクセス率のアップにつながるかもしれませんね、と提案しようと思ったが、これまた、不在の証明になり逆効果だとまずいな。

神尾達之(早稲田大学)