シンメルプフェニヒ観劇記(S.Otsuka)[J]   作成日:2005/10/06
 今年の3月、ある日の夕刻。ミュンヘン中央駅内のインフォメーションにて。――例によって大慌てで一番安いホテルを探し出した後に、すぐにそのまま向かおうと思っていた「芸術の家劇場(Theater im Haus der Kunst)」へのアクセスの仕方を訊ねる。
有名な「英国式庭園」の一角にあるのだから、いざとなれば歩いても構わないが、なにぶん時間がない。すると、突然大声で「シンメルプフェーニヒ! そうか、お前はシンメルプフェーニヒを見に来たんだな」と、実直そうな係員がニヤリと笑う――「俺も近いうちに必ず見に行くつもりさ」。まだあまり名前の知られていない新進劇作家とばかり思い込んでいた僕は、この作家への関心の高さに驚かされたが、「芸術の家劇場」のレジでも驚かされる。――チケットはすべて売り切れだったのだ。仕方がないのでキャンセル待ちをしながら、彼の芝居の巨大な宣伝ポスターに目を向けた――『昔の女(Die Frau von früher)』。これが、この時点でのシンメルプフェニヒの最新作である。この作品は、ドイツ演劇研究会で読んだばかりだったが、そのシンプル極まりない文体、「黒いロマン主義」に通ずる謎めいた作品世界、映画のカメラ・ワークを思わせる切断的反復の手法、推理小説じみた筋の展開など、若手劇作家のなかでは気になる存在であった。その秘密は今夜、どうしても解明されねばならなかった。次第にイライラしながら通路を行ったり来たりする僕を、ドイツ人たちは訝しげに眺めていたが、開演10分前にレジの男がさっと手を上げた。急いで駆け寄ると、「キャンセルが出た」と彼は微笑んだ。とたんに僕は目を輝かせたが、隣にいた中年男性は僕を見るや顔色を失った。彼もまた、キャンセル待ちをしていたのである……。

 ローラント・シンメルプフェニヒ(Roland Schimmelpfennig)は1967年、旧西ドイツ・ゲッティンゲンの生まれで、現代ドイツ演劇界では「指導的立場にある劇作家」(『フランクフルト・ルントシャウ』紙)と目されている。若い頃はジャーナリストとしてトルコ北西部の都市イスタンブールに比較的長い間滞在した後、ミュンヘンのカンマーシュピーレにて演出助手/共同制作者として演劇活動を始める。1996年からはフリーの劇作家として、ほぼ毎年のように、多彩な構成を駆使してジャンルを攪乱せずにはおかない意欲的な演劇テクストを提供し続けている。これまでに執筆された主な戯曲には、『永遠のマリア』(1996)、『春物の服を着た若い女性に仕事はない』(1996)、『町から森へ、森から町へ』(1998)、『5月の長い時を前に』(2000)、『MEZ(中部ヨーロッパ標準時)』(2000)、『プッシュ・アップ1-3』(2001)、『アラビアの夜』(2001)、『前と後』(2002)、『不思議の国のアリス』(2003)、そして最新作『昔の女』(2004)などがある。極めて多作な作家で、ラジオ放送劇も多い。1999年には、当時トーマス・オスターマイアーを演劇部門の芸術監督に迎えて30歳代の若手芸術家を中心にメンバーを一新した新生ベルリン・シャウビューネに2年ほど在籍して、ドラマトゥルクとして活躍した。90年代半ばから10年あまりのうちに執筆された15本もの劇作品は、現在では世界20カ国以上の国々で上演されており、これまでにシラー記念賞やエルゼ・ラスカー=シューラー奨励賞を受賞している。証言に拠れば、極めてシャイで寡黙な人物らしく、メディアに登場することはほとんどない。しかし現在ではベルリンに在住し、ヴァイセンゼー・デザイン大学で講師を務めているらしい。人前には立てるようだ……。

 現代ドイツ演劇では、テクストを〈音楽的〉に構成し、従来のドラマ構造を解体してゆくベルンハルトやイェリネクのような脱構築タイプの劇作家と、ボートー・シュトラウスに代表されるように、むしろ〈高等数学〉を思わせる手法で、台詞や筋書きを記号学的に配置してゆく劇作家とがいるが、シンメルプフェニヒは無論、後者のタイプに属する劇作家である。これらの作家は「映像メディア」の影響の下に、演劇を構築し直している劇作家であると捉えることができるだろう。彼の作品は、一見すると何気ない日常のスケッチに照明をあてているように見えるが、その時間軸を縦横無尽に疾駆する「ショート・カット」のテクスト構造と相俟って、日常の詩学から、そこに永遠の実相を見つめる、彼独自の「謎の美学」を生み出していると言えるのだ。

 ――ミュンヘンの「芸術の家劇場」に入ると、室内の両側面には階段状に全自由席の観客席が設けられ、ちょうど左右から挟むようにして中央に出来上がった通路上が演技空間となっている。そして、この通路を塞ぐように両はしからドアが設置され、家の玄関先の廊下を思わせる。『昔の女』は、ちょうど引越しの準備をしているある三人家族の父親の許に、突如24年前に永遠の愛を誓った元彼女・中年女性が、何の前触れもなしに玄関のドア先に立っていて、今は10代の息子もいるこの一家の父親を、次第に恐怖に陥れてゆくという筋書きを持つ。映画のように、同じ場面を反復して演ずるスタイルは、想像していたよりもまったく自然で、公演開始後、しばらくはヴォードヴィル風の軽妙洒脱な喜劇のように舞台を楽しんだ。しかしながら、次第に彼女は復讐する女性――神話世界の魔女メデイアを思わせる――へと変貌して、比較的短い上演時間のなか、一瞬たりとも飽きさせることなく、舞台はギリシア悲劇への不条理な接近に向け、一気に加速してゆく。最後は息子の殺害、家屋の炎上という、突き抜けるところまで突き抜けての幕切れ、であった。悲劇はいずれ循環して、“神話”の如く、永遠に反復されるだろうことを、ほのめかしつつ。――客席には、珍しいことに家族連れの姿も多く見られた。子供までがドキドキしながら舞台を楽しんでいた。彼ら家族は、新しい劇作家による新しい演劇を見に来たのだ――すなわち、かつてのように教養や政治性のために演劇を見るのではなく、まるでホラー映画やサスペンス・ドラマでも眺めるように、いわば楽しむために「芸術の家劇場」まで足を運んでいたのである――。

 なお、シンメルプフェニヒの代表作『前と後』(2002)は、この秋いよいよ刊行が開始される論創社の「ドイツ現代戯曲選30」の一冊として、来年中には書店に並ぶ予定である。

大塚 直(学習院大学) 
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