第43回語学ゼミナールに参加して(M. Sakurai)[J]   作成日:2015/11/13
 去る9月4日から7日にかけてコープ.イン.京都を会場に、第43回語学ゼミナールが開催された。「Dialektologie und Dialekte im historischen Wandel 方言学と方言、その歴史的変遷」を総合テーマに、Christian-Albrecht大学(キール)のELMENTALER Michael教授を招待講師に迎え、3泊4日の内容の濃い時を過ごした。今回は、先方の都合により、アジアからの招待講師をお迎えできなかったが、その分プログラムに余裕が生まれ、参加者同士の交流・情報交換がより可能になったのではないかと思う。
 招待講師を含めた合計33名の参加者のうち、約3分の1を大学院生または若手研究者が占め、幅広い世代間の交流が実現した。語学ゼミの場合、大学院生や若手研究者の参加が少なくないのは今年に限った話ではないが、彼らが所属大学の枠を超えて他の研究者と知り合い、議論を交わす場があるということは、文学と比較するとまだまだ人数が少ない言語学にとって重要である。そのため、今のような若手が参加しやすい雰囲気が今後も継続されることを願う。また、DAADからも参加者があり、講演や研究発表後の質疑応答で議論のきっかけとなる質問を得たり、懇親会ではそれ以外のテーマについても有意義な話し合いをしたりすることができた。

 Elmentaler教授の講演は合計3回行われた。ゼミナールの幕開けとなった初日の夜の講演では、„Dialekte – Regiolekte – Regionalstandard: Areale Strukturen und Sprachschichtungen im Deutschen gestern und heute“というテーマの下、19世紀頃の「昔の」方言研究と現代の方言研究の違いについて話された。19世紀までの方言研究は専ら、狭い地域で特徴的な言語現象を対象としていたが、現代では、その様な局地的な方言は使われなくなる傾向にあり、より広範囲の地域で「標準」的に用いられるRegionalstandardに目を向けている。翌日の„Rekonstruktion verklungener Mündlichkeit: Methoden der Historischen Dialektologie“では、技術的に録音が不可能であった時代の音韻特徴を分析する方法が紹介された。個人的には、踏韻分析によって、その書き手の出身地域の話し言葉の特徴が明るみに出るという観点が、興味深く感じた。3日目の„Was ist das beste Hochdeutsch? Zur Geschichte einer unendlichen Diskussion“では、現代ではハノーファー並びにその周辺のドイツ語が標準語だとされている(„Hannover-Mythos“)が、それは本当に現実を反映しているのか、また、そもそもdas „beste“ Hochdeutschを決めるのではなく、様々な状況に適当な言語使用の型を伝えていくことが重要であると、語られた。

 2日目、3日目には、Elmentaler教授の講演と並んで、日本側からも合計6つの研究発表が行われた。テーマも地域言語研究に限定されたわけではなく、多領域に及び、活発な議論が交わされた。また、最終日の午前中には、Elmentaler教授の講演内容に対する理解を深めるためのワークショップが開かれた。このワークショップは、3つの講演のポイントを日本語で解説することで、理解できなかった点、聞き逃した点、再確認したい点を日本語で整理することを目的としている。これを踏まえて午後のディスカッションでは、大学院生らを中心に、整理した疑問点をドイツ語でElmentaler教授に投げかける機会が与えられた。

 この最終日のワークショップが行われるようになったのは、ここ10年ぐらいのことだと耳にしたが、自分が理解できたかどうかを整理した上で、事前に質問内容をドイツ語で作文し、必要であれば先生方に添削してもらう時間があるため、今後様々な舞台でドイツ語で質問するようになる時に向け、良い訓練になると思う。このワークショップがあることで、今後も、大学院生や若手研究者が(あるいは他分野の人も?)語学ゼミに参加しやすくなるのではないだろうか。

 私自身は、実は、20年振りに参加したのだが、日本にはあまりいないと思っていた、ドイツ語の「地域的ヴァリエーション」を研究テーマとしている人が、対象地域もNiederdeutschからLëtzebuergesch、Schwitzerdütsch、Siebenburgisch-Sächisch、Ostmittelbairisch等と多岐に渡って、結構(?)いることが分かったことが、密かな喜びだった。また、その様な情報が得られたのは、研究発表の合間のKaffeepauseであり、夕食後の„unser Tatamizimmer“であり、プログラム後のgemütliches Beisammenseinでのことであった。緊張感のある講演、研究発表はもちろんのこと、それ以外の時間で大学、年代の枠を越えて話をする機会があり、特に、非常勤生活を送っていると、大学院生に接する機会がほとんどないため、非常に有意義な3泊4日であった。

櫻井麻美(中央大学兼任講師)